バックナンバー55号(2023年)

「電興技報」は電気興業グループの研究開発に関する論文や最新技術、製品紹介などをわかりやすくご紹介しています。
バックナンバーもございますので、ぜひご覧ください。
なお、冊子体の販売はしておりませんのでご了承ください。


55号(2023年)


巻頭言 「空飛ぶクルマ」

取締役執行役員 高周波統括部長 富居 博治


グラビア


論文 28GHz 帯階段形誘電体ロッドアンテナ

本稿では,従来のテーパ形の簡易形として,階段形誘電体ロッドアンテナについて提案する。設計周波数は,5G で用いられる28GHz とする。アンテナ構造は,矩形-円形導波変換器,励振ホーン,階段形誘電体ロッドより構成した。誘電体ロッドの段数は3 段とした。電磁界解析により,ロッド径およびロッド長を最適化することで,22dBi 以上の高利得の実現を明らかにした。提案アンテナの3dB ビーム幅は約15° となった。26.5GHz~32GHz の帯域にわたってVSWR=2 以下が得られた。本アンテナは,試作機により実測しており,解析値と良く一致する放射特性を得た。


論文 28GHz 帯ローカル5G 向け偏波共用ホイヘンスメタサーフェス反射板の開発

メタサーフェス(MTS)反射板は反射波の方向やビーム幅を自由に設計可能である。当社ではローカル5G のエリア改善を目的として,回折格子周期を利用したホイヘンスメタサーフェス(HMTS)反射板を開発した。
本論文では,28GHz 帯の偏波共用HMTS の設計手法とローカル5G における応用例を紹介する。開発したHMTS は,回折格子周期となるスーパーセル1 周期あたり2つのユニットセルのみでシンプルに形成されている。誘電体基板を用いた反射板であり,垂直偏波と水平編波の共用を実現するため,反射素子には十字型分割共振器を使用した。ユニットセルが2 種類のみであり,配列時は左右対称構造となる事から,一つの反射板で2 種類の入反射角を実現している。入反射角θi = ∓10º からθrm = ±70º の2 種類の入反射特性を有しており,容易な設置とコストの削減も期待できる。本HMTS を不感地帯の天井等に設置することでローカル5G のカバレッジエリアを拡大することが期待できる。
本論文は,2022 年8 月に開催されたアンテナ·伝播研究専門委員会にて報告した”Dual-Polarized Bipartite Huygens’ Metasurface with Anomalous Wave Refl ection for Local 5G Application at 28.25 GHz” を加筆·転載したものである(copyright©2022 by IEICE)。


技術紹介 トランジスタ式プラズマ設備における大気圧プラズマ着火

当社既存のトランジスタ式電源は金属熱処理以外にも,プラズマ発生装置用の電源としても使用されている。今回,客先より真空管式電源からトランジスタ式電源への入れ変え依頼を受けた。客先仕様により,大気圧下にてプラズマ着火させる必要があった。トランジスタ式電源でのプラズマ着火は,大気圧下であること,周波数が低いことからプラズマ着火は困難と予想された。大気圧下かつ低い周波数でプラズマ着火させるため,トーチ形状の検討や,トランジスタ式電源の負荷回路の見直しを行い,大気圧着火に成功した。最後に,大気圧着火後の加工テストを実施したところ,製品化に向けた課題も見つかった。


技術紹介 材料供給装置と連動した短時間サイクル設備の実現

高周波焼入れを行う生産現場では省人化,加工の短時間化,省エネルギー化,低価格化の進んだ設備が用いられている。最近は,特に省人化と加工の短時間化が進んでおり,作業者1名で複数の生産設備を受け持ち,少ない時間で大量に加工することが求められている。この省人化の機能を満たすための対策方法の一つとして,一度に大量の材料を投入することで,長時間連続して焼入れ設備に材料を自動供給し続ける,「材料供給装置」の利用が挙げられる。
次に加工の短時間化は,1つの製品を加工する時間「サイクルタイム」を削減することである。サイクルタイムは加工と搬送の時間を合わせた時間で,生産量に直結する重要な要素であるため,短時間化が進められている。
今回,大量処理が可能な材料供給装置と連動した焼入れ機の製作を行い,省人化を実現した。また,10 秒で2 個の製品を加工するという短時間での加工サイクルの使用に対して,「材料供給装置」と「焼入れ設備」の動作との連動を最適化させ,高頻度のワーク供給に対応できる搬送機構を開発し製品化した。
本稿では,材料供給装置を用いて,短時間の加工サイクルを実現した焼入れ装置を紹介する。


製品紹介 5G NR O-RAN 対応無線装置(O-RU)の開発

5G NR システムでは,無線装置(以下O-RU)と制御装置CU/DU 間インタフェースの共通仕様化(O-RAN)が進み,マルチベンダでのシステム構築が可能となってきた。当社では,O-RAN 対応のマクロセル向け高出力無線装置(以下MacroO-RU)及びスモールセル向け小型低出力無線装置(以下Small O-RU)の2機種を同時開発した。
本稿では,当社で開発した2機種のO-RU の概要と仕様について紹介する。


製品紹介 5G 3Band 対応DAS の開発

日本国内の移動体通信市場では,各キャリアが5G エリアの拡張を進めており,屋内通信エリア拡張を目的として,5G-indoor DAS  が使用されている。
当社では,5G-indoor DAS に対応する装置の開発に取り組み,1.7GHz 帯,3.5GHz帯,Sub6 帯の3Band に対応した製品を開発した。開発したDAS は,1.7GHz 帯のLTEをアンカーバンドとして,3.5GHz 帯またはSub6 帯の5G NR  信号を使用可能としたシステムである。本稿では,開発を行った5G 3Band 対応DAS について紹介する。


製品紹介 5G システム対応Sub6 帯アンテナ

通信事業者各社では5G エリアの拡大を目的として,既存LTE バンドのNR 化およびSub6 帯を用いたエリア構築が進められてきた。高速通信·大容量通信を実現するためには,Sub6 帯をはじめとした5G 用として割り当てられた周波数帯を用いたエリア展開が重要となる。近年では,通信事業者のみならずインフラシェアリング事業者やローカル5G 事業者によるサービスが増えてきていることから,使用用途に応じて様々なアンテナが求められる。本稿では,それらの多様化する需要に対応すべく製品化した各種Sub6 帯アンテナの仕様と特長を紹介する。


製品紹介 テレビ非常用可変指向性アンテナ

自然災害等により送信所の放送設備が被災し,放送が継続できなくなる事態に備えて,放送事業者各社は非常用アンテナの整備を進めている。当社ではこれまで複数の非常用アンテナの製品化を行ってきたが,さらなる高機能化製品として,新たにテレビ非常用可変指向性アンテナを製品化した。
本稿では,製品化したテレビ非常用可変指向性アンテナについて紹介する。


製品紹介 ディープラーニングを用いた人物検知システムの開発

当社では,2021 年からサーマルカメラを用いた人物検知システムの開発に取り組んでいる。既に開発済の「船舶検知システム」「鳥検知システム」に続き,不法侵入者の監視自動化に取り組み,システムの多様化を検討した。
本稿では,当社独自のカメラ制御監視ソフトウェアDK-iCam® での画像解析及びディープラーニング構築方法や,サーマルカメラ部とカラーカメラ部を備えた2 眼式サーマルカメラによる人物検知と不法侵入者の区別方法について紹介する。
なお,DK-iCam® は当社独自のカメラ制御監視ソフトウェアにて所有している登録商標(商標登録第6684299 号,第6684301 号)である。


製品紹介 船舶用ギヤ焼入装置

当社では初となる「船舶用ギヤの焼入装置」を受注した。
船舶用ギヤは自動車用部品と比較し,サイズが大きいことが特徴である。
今回対象となる加工物は様々な形状のギヤである。小さいサイズは外径128mm で重量は約5kgf,大きなサイズは外径1,690mm で重量は約1,200kgf になる。また,シャフト状の加工物も焼入が可能であり,最大径175mm,全長710mm まで対応している。
これらの部品を1 台で加工出来る装置として成立させるために,必要な機能を検討し,また操作性や設備寸法など,顧客要望に満たしたうえでコストダウンを実現させた。
本稿では,顧客要望への対応するために考案した機構と,機能を損なわずに実施したコストダウン内容を紹介する。


産業財産権 「2022年度に取得した産業財産権」


論文紹介 「社外発表および論文紹介」